―――指を組んでいた。
無音の室内。
白い部屋。
冷たい空気。
寝具の中、起き上がり、俯き、その人物は指を組んでいた。
眼を瞑ってはいるが、眠っているわけではないだろう。
とはいえ、だからといって見た通りの行為をしてるとも思えないが。
見た目だけなら、その姿は信仰深い信者に見えなくもないが…
「柄じゃないのは分かってますから、そんな眼で見ないで下さいよ」
俯かせていた顔を上げ、薄らと眼を開けて、彼は、獄寺は苦笑してリボーンに声を掛けた。
その指は組まれたまま、絡まれたまま。
「珍しいものを見たと思ってな」
「無信者ですからね。これも、別に祈っているわけじゃないんですよ」
ただ、こうしていると不思議と落ち着くんです。と獄寺は呟いた。
ということは、逆算して考えると獄寺の心は乱れていたということになる。
幼き頃から裏の社会に身を置いて、これまで数々の修羅場を潜り抜け、生死の危機すら幾度となく体験してきた獄寺が。
「笑って下さいよ。どうやらオレは、手術が怖いようです」
自嘲気味に言う獄寺。無表情で無言のリボーン。
声を投げる代わりに、リボーンは獄寺に近付いた。寝具隣に置かれている椅子に腰掛ける。
そして―――
「リボーンさん?」
「こっちの方が落ち着くんじゃないか?」
リボーンは獄寺の両の手を繋いでいた指を解き、代わりに自分の指と絡めさせた。
獄寺は戸惑い、困った表情を作る。
「嫌か?」
「いえ…」
そういうわけではない。そんなわけはない。
ただ、これは、この図は…手術前の自分と、そんな自分を手を繋ぐ少年の図は―――
「ものすごく恥ずかしいです」
「気にするな」
「オレがものすごく子供みたいです」
「気にするな」
オレからすればお前はまだまだ子供だしな。とリボーンに言われてしまい口を紡ぐ獄寺。
見た目はどうあれ、実年齢を考えれば確かにリボーンは獄寺より年上だ。見た目はどこからどう見ても幼い子供であれども。
「不安に思うことを恥じなくてもいい。…大きな手術らしいじゃないか」
「ええ…まあ」
身体は痛むのか、と聞かれ否定の意を返す獄寺。
薬でも投与されているのだろうか―――それもまた不安を一役買っているのかも知れない。
獄寺は紡がれてるリボーンの手をくすぐったそうに見る。
「今日は随分とお優しいんですね」
「オレはいつだって優しい」
「そうでしたっけ」
「そうだ」
強く断言される。獄寺はまた苦笑する。
昔は―――あんなに苦手だったのに。
実は…今も少し、苦手だというのに。
なのになんで―――手を繋がれているだけで、こんなにも落ち着くのか。
自分とは違う、誰かの体温。
静かに感じる、血潮の動き。
獄寺は眼を瞑る。
世界は暗く沈み、手と手を合わせた感触だけが残る。
―――指を組んでいた。
静かな室内。
白い部屋。
暖かな空間。
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「ところで、指を組んだら落ち着くとどこで知ったんだ?」
「それが全然覚えてないんですよ。…すごい小さい頃誰かに教わったような…」
(実はビアンキが幼いお前に教えたんだ、と言ったらこいつはどんな顔するんだろうか)